
頑張ろう! 国産Webサービス -「デジタル赤字」時代を生きるエンジニアの責任
国産のWebサービスがもっと盛り上がりが見せる未来を想像しながら、これからのエンジニアがどうあるべきかを考察
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この国は少子高齢化、通貨安と物価高、社会インフラの老朽化など様々な問題を抱え、特に若者には将来を悲観する人も多いかもしれません。
しかし、これらの多くの問題は先進国が現在進行形で経験している問題であり、いち早く突破すれば、明るい未来を手にすることも可能なのではないでしょうか。
Webエンジニアという職種に焦点を当てれば、「デジタル赤字」という近年注目されて久しい問題があります。
まずは「自分でできること」というと初心者プログラマーとしては、少し風呂敷を広げすぎな感はありますが、向き合うべき課題として取り上げ、当「DELOGs」サイトの決意も込めて考えてみたいと思います。
広がる「見えない赤字」
日本のデジタル赤字が、近年国家規模で問題視されている。
「デジタル赤字」とは、海外企業から提供されるクラウド、ソフトウェア、AIサービスなどの利用によって生じるサービス貿易収支の赤字を指します。日本銀行の報告書「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」(2023年8月)では、サービス収支の赤字の主因が「デジタル関連支出」であり、その規模は年々拡大していると指摘されています。
■デジタル関連赤字の推移(経済産業省)


さらに2024年の「デジタル社会の実現に向けて」(経済産業省2024年10月)データでは、上記のように日本のデジタル関連貿易収支は約6兆円の赤字。この額は日本が輸入する液化天然ガスや食料に次ぐ規模に達しています。クラウド利用やSaaSの定着によって、「サブスクリプション課金」が毎年、国外に流れ出している状況です。
また、昨今の円安状況がこれに拍車をかけています。
また、昨今の円安状況がこれに拍車をかけています。
現場の実感と国家の構造的課題
これはWebエンジニアでなくても実感している人も多いと思います。
AWS、GCP、Azure、OpenAI、Slack、Figma、Netflix……。日々の業務や開発環境で、もはや「使わない日がない」レベルでこれらの外資系サービスは定着しています。
使いやすく、強力で、スケーラブル。誰が使ってもすぐに価値が実感できる。だが、この「便利さ」こそが、日本の国際収支の根底を静かに揺るがしています。
使いやすく、強力で、スケーラブル。誰が使ってもすぐに価値が実感できる。だが、この「便利さ」こそが、日本の国際収支の根底を静かに揺るがしています。
「否定」ではなく「問い直し」から始めよう
外資サービスの使用を否定しても仕方がありません。正直、これほどのサービスを先行して成功している前述の企業に勝てる気がしません。それほどまでに、彼らのプロダクトは驚異的なまでに完成度が高く、先進的で、UX・技術・速度すべてにおいて我々が学ぶべき点が多い。
あまりに多いゆえに、向き合えば、どこから学んだものかという気持ちにさせれてしまう。
しかし、一部分を取り出して、さらに切り分けて学んでいくことが大事だと考えています。
Webエンジニアの方は、すでに日々取り組んでいるとは思いますが、「ここの部分は真似できそう」「ここは丸パクリで」とか良いところは自分のサービスへどんどん取り込んでいく。また、「ここはもっと良くできそう」と一部を改良しながら、取り込んでいる方も多いと思います。
そうやって、良いサービスを作るために努力しているのですが、やはり先行者メリットには勝てない状況です。
デジタル赤字を解消しようとすると、問題は、「その対価を払い続ける構造」が一方向的であるという点に集約されてしまいます。
- 日本は年間5兆円以上を払い、
- 海外からはほぼ無風(輸出は極小)
この状況をどう捉えるかが、我々の分かれ道になります。日本から海外でも受けるWebサービスを誕生させないとこれは解消できないと考える人もいるでしょう。
しかし、私はそれはスケールが大きすぎる気がします。 まず、少しでも国産のWebサービスで良いものを作って、本当に少しずつ海外依存を軽くしていく。そこから始めていくことしか今はできないと考えています。
しかし、私はそれはスケールが大きすぎる気がします。 まず、少しでも国産のWebサービスで良いものを作って、本当に少しずつ海外依存を軽くしていく。そこから始めていくことしか今はできないと考えています。
日本政府と企業の挑戦
こうした状況に対して、日本政府や企業が具体的な対策に乗り出しています。
ガバメントクラウド構想
「政府もクラウドに乗る時代」──。
ガバメントクラウドとは、各省庁・自治体が共通基盤として利用する政府系クラウド環境だ。外資系クラウドである「Amazon Web Services(AWS)」、「Microsoft Azure」、「Oracle Cloud Infrastructure」、「Google Cloud」4サービスに加え、2023年にはさくらインターネットの「さくらのクラウド」がガバメントクラウドの対象となった。
この選択には、前述の「デジタル赤字」への懸念も影響しているのではないかと思われる。
- 2023年度時点で採用自治体は50超
- 複数年度に渡るシステム移行計画が進行中
- さくらインターネットは1,000億円規模のGPUクラスタ構築へ
さくらインターネットには、経済安全保障推進法に基づく「クラウドプログラム供給確保計画」の一環として、AI向け計算資源(GPUクラウドサービス)の提供が認定された。結果、最大約501億円が政府から助成金という形で投下されている。
ただ、さくらインターネットが構築するGPUクラスタは
とはいえ、この政策は、単なるインフラ整備ではなく「データ主権の確保」「産業基盤の国産化」という強いメッセージを持っている。
ただ、さくらインターネットが構築するGPUクラスタは
NVIDIA
のGPU。したがって、国産とはいえ、やはり海外の優れた技術に寄っていることには違いはない。とはいえ、この政策は、単なるインフラ整備ではなく「データ主権の確保」「産業基盤の国産化」という強いメッセージを持っている。
■ガバメントクラウド全体構成図


■参加クラウド事業者比較表
事業者名 | 国籍 | 採用自治体数 | 特徴・用途 |
---|---|---|---|
さくらインターネット | 🇯🇵 日本 | 約50自治体以上(2023年) | 国産GPUクラウド、生成AI向け強化 |
AWS | 🇺🇸 米国 | 多数 | 柔軟なスケーラビリティとAPI基盤 |
Microsoft Azure | 🇺🇸 米国 | 一部自治体導入 | Windows系インフラとの親和性 |
Google Cloud | 🇺🇸 米国 | 少数 | 機械学習・データ処理特化 |
円安で運用費は高い傾向にあるとはいえ、やはり、AWSは強いです。しかし、「さくらのクラウド」を採用する自治体もある状況です。
私もこれに期待して、「さくらインターネット」の「さくらのクラウド」を利用してみようと検討して、実際に「DELOGs」は「さくらのクラウド」で運用をしています。「さくらインターネット」をかなりの微力ですが、応援しています。
私もこれに期待して、「さくらインターネット」の「さくらのクラウド」を利用してみようと検討して、実際に「DELOGs」は「さくらのクラウド」で運用をしています。「さくらインターネット」をかなりの微力ですが、応援しています。
経産省の警鐘:「2030年にはデジタル赤字10兆円超」
経済産業省の資料「デジタル社会の実現に向けて」(2024年10月)では、現状のままだと2030年にはデジタル赤字が10兆円を突破する可能性があると指摘されています。
一方、世界の生成AI市場や半導体産業は急成長中。
- 半導体市場:2020年→2030年で 50兆円 → 150兆円(経産省試算)
- 生成AI市場:2030年には 日本市場だけで1.7兆円規模(経産省試算)
■各国の主なAI政策(2024年時点、出典:経済産業省)
国 | 予算額 | 概要 |
---|---|---|
🇯🇵 日本 | 1,856億円 | * 2024年2月から、約290億円の予算で、生成AIの基盤モデル開発の支援を実施。 * AI開発に必要なデータの利活用を促進する実証、計算資源の国内整備を支援(1,566億円の予算を措置)。 |
🇺🇸 米国 | 約5兆円 | * 2023年10月、「安全、セキュアで、信頼できるAI」に関する大統領令を発表。* 米上院の超党派グループが、特定分野でのAI技術開発に約5兆円の支援を提言。 |
🇪🇺 EU | 4,533億円 | * 高速機械学習や大規模汎用AIモデルの学習を可能にするため、21億ユーロを追加投資。* 生成AIの新たなアプリケーション支援に向けて、5億ユーロを拠出。 |
🇨🇳 中国 | 未公表 | * 2023年、「AIプラス構想」を発表し、製造業変革を目指す国家戦略を展開。* 2026年までに、AIに関する国家標準・業界標準を50以上策定予定と発表。 |
🇰🇷 韓国 | 781億円 | * 2024年4月、韓国・科学情報通信省が7102億ウォンをAI分野に投資する計画を発表(対象は69分野)。 |
米国の数値は政府としての支援措置額では無く、議員による提言額です。しかし、圧倒的に投資額です。ただ、日本もEU全体での数値に比べると頑張っているのではないでしょうか。
ここに乗り遅れれば、経済成長の「デジタルエンジン」を全て海外サービスへ外注する未来が現実になってしまう危機感の現れと思っています。
“全部国産である必要はない”という視点
ここで重要だと思うのが、「全てを一から国産で作る必要はない」という視点です。
これは安宅和人氏が「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」(2020年2月)で詳細に述べられていることだが、一から全てを生み出す必要はないと私も考えています。
海外の優れたサービスを基盤として利用して、その上に、より活用しやすいサービスを構築すればいい。
海外の優れたサービスを基盤として利用して、その上に、より活用しやすいサービスを構築すればいい。
たとえば、
- OSSやAPIベースの海外サービスをローカライズ
- 国産プロダクトと組み合わせて“ハイブリッド型”に
- セキュリティやデータ保管だけは国産で担保
といった「カスタマイズ+融合型」の発想が現実的かつ効果的と思います。敵か味方かではなく、どう付き合うか。私たちは“使う側”から“使いこなす側”へ進化しなければならないと考えています。
この「DELOGs」サイトにしても「React」「Next.js」などを利用しています。ここを離れて一から全てを作るのはナンセンスです。
海外のWebサービスに対抗しようとして、優れたサービスを見ないことにしては、開発だけで何年も無駄にしてしまう。例えば、国産の生成AI開発を否定しようとは思いませんが、ChatGPTを作るのではなく利用して良いサービスを生み出そうとする方向性が最適ではないかと考えています。
「デジタル赤字だ」「黒字にしよう」と短絡的な考えに終始すると目的を見失うと思います。あくまで目的は、良いサービスを展開して、多くのアカウントを獲得していくことです。
海外のWebサービスに対抗しようとして、優れたサービスを見ないことにしては、開発だけで何年も無駄にしてしまう。例えば、国産の生成AI開発を否定しようとは思いませんが、ChatGPTを作るのではなく利用して良いサービスを生み出そうとする方向性が最適ではないかと考えています。
「デジタル赤字だ」「黒字にしよう」と短絡的な考えに終始すると目的を見失うと思います。あくまで目的は、良いサービスを展開して、多くのアカウントを獲得していくことです。
「日本人が使いやすいサービスは、日本人が一番作れる」
これは単なる精神論ではありません。
日本の業務文化、法制度、言語仕様、決済慣行など、「細かすぎて伝わらない」仕様に寄り添えるのは、やはり日本企業のだろうと考えるのが自然な結論だと思います。
さらに:
- アジア諸国では日本式UXに親和性の高い文化も存在
- “ジャパン・クオリティ”は依然として輸出価値がある
未来を奪われないために
この数年で、日本は「ものづくり大国」から「デジタル依存国」へと静かにシフトしてしまいました。これは前述までの事実です。
しかし、それは「終わった話」ではありません。
私たちが再び“作る側”に戻るための道は、まだここにある。
国産Webサービスの未来は、誰かが与えてくれるものじゃない。
それは、私たちが“作って”“使って”“育てていく”ものだと思うのです。
私たち技術者には、単なる“道具の使い手”を超える役割がある。
できること:
- 「なぜこの技術を使うのか」を常に問い直す
- 国産OSSに貢献し、国内エコシステムを強化する
- スタートアップを応援・協力する
- 教育機関と連携し、技術継承を担う
そして、この「DELOGs」サイトも本当に小さな一歩ですが、それに貢献して、日々努力で着実な歩みを続けていきます。
さらに、これを読んでくれたあなたへ -
「あなたが次に開発するプロダクトが、日本の未来を変えるかもしれません」
「DELOGs」サイトは、それを祈っています。
「あなたが次に開発するプロダクトが、日本の未来を変えるかもしれません」
「DELOGs」サイトは、それを祈っています。
【参考文献】
- 「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本」(唐鎌大輔 著)
- 「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」(安宅和人 著)
- 「デジタル社会の実現に向けて」(経済産業省)
- 「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」(日本銀行)
この記事の執筆・編集担当
DE
松本 孝太郎
DELOGs編集部/中年新米プログラマー
ここ数年はReact&MUIのフロントエンドエンジニアって感じでしたが、Next.jsを学んで少しずつできることが広がりつつあります。その実践記録をできるだけ共有していければと思っています。